津波のように押し寄せる電子メディアの襲来にあい、従来からのメディアが脅威に震えつつある。その真直中にあるのは情報メディアとしての危機に瀕している「本」である。
今回の震災でもいち早くその情報を感知し、コミニュケーションを取得したのは、紛れもなく、電子メディアである。されば、情報時代の要請を受ける役割はそちらに任せてしまえばよいのではないだろうか? 「本」というメディアがもつ新たな存在価値や可能性を追求することで、また新しい本の世界が生まれるのではないだろうか?
落語も然り。某出版社の調査では、若い世代に俄に「落語」が受け入られ始めているという。落語は本来、噺家による話芸であるが、円朝をはじめとする古典落語の数々をテクストとして眺めてみると、その見事な構成や、考え抜かれた細部にわたる作劇法など、洗練されつくした美しさに驚かされ、一気に100席の演目を聞き入ってしまうほどである。そのテクストのもつ力は受け手を魅了し、豊かな想像上のビジュアルコミニュケーションの世界へと誘う。そしてその世界を伝えるために最も効果を発揮したのが、今回の作品である。
人間が長い年月をかけてその叡智や憧憬を紡ぎ、繋ぎ、記してきた「本」という媒体の存在意義をあらためて見直し、さらに電子メディアでは味わうことのできない、よい意味での本の進化を願うものとして、頼もしいアプローチといえる。
石垣貴子
(武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 通信教育課程情報デザイン学科 講師)